『スティル・ライフ』
(2010.06.20)
この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。
世界はきみを入れる容器ではない。
世界ときみは、二本の木が並んで立つように、
どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。
それを喜んでいる。
世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。
でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。
きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。
きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、
きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、
一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。
二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると、毎日を過ごすのはずっと楽になる。
心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。
水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。
星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果があがるだろう。
星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけれども。
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ご存知の方も きっと 多いと思いますが
実は上の文章は
池澤夏樹の『スティル・ライフ』(1988年第98回芥川賞受賞作)
という古い小説の冒頭の文章です
最初の文章も ものすごく良いですが
『スティル・ライフ』というタイトルも
センスを感じさせるステキなタイトルですね
小説というのは
タイトルが大事で
タイトルが決まった瞬間に
その作品の良し悪しも決まってしまう・・・
というようなことを
ある作家が
エッセイか何かで書いていました
これはおそらく
読者というのは
タイトルから
一枚の絵のようなイメージを自分のなかに
つくりだしてしまうもので
小説の良し悪しというのは
そのイメージのレベルや完成度に
まずは依存してしまうからではないか
と思います
そして
その作品を読んだあとで
読者がどこまでそのイメージに到達できるか・・・ということも
重要なわけで
もちろんその過程で
作家の力量が問われるのでしょうが
それはもはや技術的なレベルの話であって
それ以前に
タイトルというものが決定した瞬間に
想起されるイメージのクオリティーこそが
作品のデキを支配する
決定的な因子なのかもしれません
もちろんすべての小説がタイトルで決まるわけではないでしょうが
良い小説はタイトルがやはり良いように思います
これは小説に限らず
歌や映画などにも
いえることかもしれません
ところで
『スティル・ライフ』という
この古い小説のことを思い出したのは
先日行ったオルセー美術館展2010で
セザンヌの絵をみたときでした
この絵は学校時代の
美術の教科書にもあったような
有名なセザンヌの静物画ですが
この絵が
先日行った『オルセー美術館展2010』に
来ていました
セザンヌの静物画はこの絵のほかにも
幾つかあったのですが
その絵の脇に
『Still Life』とタイトルが書かれていたのです
『Still Life』
辞書をひくと
[U](画材の)静物;[C]静物画(▼複数形still
lifes)
『Still Life』というのは
静物画・・・を意味する言葉なんですね
上で書いた
『スティル・ライフ』という小説は
そのタイトルがもつ雰囲気や不思議な静けさが
最初から最後まで
しっかりキープされている
心地良い小説で
こんなタイトルで
タイトル通りの雰囲気を持つ曲を
1曲でよいから
創ることができたら
いいなあ〜と思います
本格的に梅雨入りして
家にいる時間が長くなりそうな季節です
この『スティル・ライフ』を読んでみるのもいいかなあ〜と思うし
梅雨の晴れ間には
六本木で開催されている『オルセー美術館展2010』へ行くのも
いいかもしれません(^^)
オルセー美術館展2010は
今 オルセー美術館が改装中のため
普段では不可能な数の大量の有名な絵画がやってきています
日本でこれだけ
たくさんのオルセー美術館所蔵の絵画を
観ることができるのは
恐らくこれが最初で最後であろうとのことです
セザンヌの他、ゴッホ、ゴーギャン、モネ、ルソー・・・
それぞれ個性的で
みごたえ十分の作品があふれていました
8月16日(月)まで
開催されているとのことですので
機会があれば
ぜひ!!おでかけください(^^)♪
では、また
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